渡邊憲博

渡邊憲博

なぜ、金融業界から介護・福祉業界へと転職されたのでしょうか?
もともと福祉の分野には興味がありましたし、祖母との関わりのなかで高齢者へのケアにも関心がありました。大学を卒業してから8年間、信用金庫で働いていましたが、やりがいはあったものの次第に「もっと人の役に立つ仕事をしたい」と思うようになったんです。そんな折に福祉村の求人広告を見て、応募したんです。
介護・福祉業界で働くのなら、相談員をやりたいと思っていました。面接でそう伝えたところ、面接官を務めていた理事長(山本孝之氏)に、「相談員を目指すなら、まずは介護士として働いて現場を知ったほうがいいのでは?」とアドバイスを受けたんです。確かに、介護士として働いた経験があれば、相談に応じる際も相手の話をより深く理解できるに違いないと納得し、まずは介護士としてさわらび荘で働き始めました。

さわらび会の理念は「みんなの力でみんなの幸せを」です。渡邊さんが考える「幸せ」とは?
地元の小学校に出向いて、生徒さんたちに福祉や介護の仕事についてお話しする機会があります。そこで、「皆にとっての幸せって何ですか?」と質問するんです。小学生なので、答えは「ゲームしているとき」「マンガを読んでいるとき」といったものがほとんど。誰かに束縛されずに、自分が好きなことをやっている時間が「幸せ」だと言うんです。
子どもだけでなく大人も、誰かに束縛されずに好きなことをするのが幸せだと思っているような気がします。
私も20代の頃まではそう思っていました(笑)。でも、そういう幸せってそのうち飽きませんか? では、本当の幸せって何でしょう。私は、自分で目標を立ててそれに向けて努力している、あるいは、努力できる環境がある、それが幸せだと思っています。そして、自分が努力した結果、それが何かしらの形でほかの人の役に立ったとしたら、幸せ度はいっそうアップしますよね。ただ、「自分で目標を立てて、それに向けて努力できる」という幸せを得るには、条件があります。それは自立です。自立していなければ、その幸せは手に入らないんです。
山本理事長は常々、「人間は、それぞれが与えられた能力を伸ばしながら、自立して自由に生き、しかも、まわりの人の役に立つ働きをする時に、最高の幸せを感じる」と言っています。これは本当にその通りだと思います。しかもこの言葉は、年齢を重ねるにつれ、より深く納得できるようになってきました。私が働く「さわらび荘」は、利用者さまの幸せを実現するための場所。これからもスタッフと力を合わせて、利用者さまの本当の幸せを実現していければと思っています。
その後、2007年から相談員となり、現在はさわらび荘の副施設長兼相談員をされています。仕事をするうえで心がけていることはありますか?
常に利用者さまの健康と安全を第一に考えていますが、特に安全面には留意しています。安全でなければ、楽しく快適に暮らしていただけません。この考えは、私は理事長の振る舞いから学びました。
ある日、具合の悪い利用者さまを診療してもらうため、福祉村病院を訪れたときのことです。その方と2人で待合室で待っていると、山本理事長が通りがかったんです。理事長はこちらを見ると近づいてきて、私にこうおっしゃいました。「利用者さまにきちんとイスに座っていただきなさい。このままでは危ないよ」と。
利用者さまはイスに浅く腰掛けていて、私もそれに気づいてはいました。ただ、「これぐらいなら大丈夫」と気に留めていなかったんです。でも、山本理事長は違いました。利用者さまに深く腰掛けるようにすすめ、さらに「ごめんなさいね」と謝られたんです。「危ない状態にさせてしまい、ごめんなさいね」という意味でおっしゃったのでしょう。
これぐらいなら大丈夫だろう」と見逃していると、いつしかそれが積み重なって大きな事故につながるかもしれないですよね。でも、早い段階で気づいて正していれば、大事には至らない――この事故防止の鉄則を学びました。
