継泰城

今の社会に最も必要なのは高齢者を孤立させない仕組みです
福祉村病院外来診療部長
つぐ・やすくに

継泰城

継泰城先生が福祉村病院・外来診療部長として着任されたのは2018年の春。それまでは神経内科の医師として活動され、早くから「物忘れ外来」を開設されるなどして認知症患者さんやご家族が抱える問題を多く診てこられました。「認知症の治療のためには、できるだけ早期に発見できる仕組みをつくることが大切」という先生に詳しくお話を伺いました。

福祉村病院に来られた経緯を教えてください。

私は神経内科が専門です。私としては、ずっと神経内科でやっていくつもりだったのですが、そのうち認知症患者さんも診るようになり、前任の病院では「物忘れ外来」を週4日行っておりました。

ただ、外来診療においては、認知症患者さんのリアルな姿が見られるのは基本的に診察室に来られたときだけで、自宅や施設での患者さんの生活状況を直接見ることができません。「もっと違う形で認知症患者さんを診られたら……」という思いが常に頭の片隅にありました。

そんな折に、出身大学である名古屋市立大学の関係者から、さわらびグループを勧められたのです。さわらびグループのことは以前から知っていて、認知症診療に定評がある福祉村病院と、介護老人保健施設や特別養護老人ホームなど介護施設があり、認知症に対して医療と介護が連携してサービスを提供している体制に興味がありました。そこで、2018年から週2回、外来を担当させていただくことになったのです。

「脳は働かせるほど、神経細胞がどんどん伸びます。数はそれほど増えませんが神経細胞同士のコネクションがたくさんできる。だから脳は使えば使うほどいいんです」(継先生)

認知症予防のために何をすべきでしょうか?

認知症は発症したら終わりと思っている方も多いのではないでしょうか。それは誤解です。アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)を例に説明すると、アルツハイマー病は、脳内にたまるアミロイドβ(ベータ)というタンパク質が神経細胞を破壊して起こると考えられています。ですが、アルツハイマー病を発症したからといって、全ての神経細胞が破壊されているわけではありません。生きている細胞もたくさんありますから、それらを働かせればよい。要は、残された「正常な脳細胞」を最大限に活性化させればいいんです。

では、脳細胞を活性化させるにはどうしたらいいか。おすすめは人とコミュニケーションをとることです。人と会話をしていると、相手の表情や仕草、口調を分析しなければなりませんし、相手が話している内容を記憶して理解しようとします。そのため脳がフル回転するわけですね。実際、私が診ている患者さんの中には、認知症と診断されて8年、9年経っても認知機能が悪化しない方がいらっしゃいます。そういう方はたいてい、人とコミュニケーションを積極的にとっておられます。

今後の抱負をお聞かせください。

豊橋市は、人口に対する認知症専門医の数がまだまだ少ない状況です。そのため、福祉村病院に来られる患者さんというのは、すでにある程度症状が進んだ方が多い。

一方、認知症というのは、できるだけ早期に発見して介入することが望ましいといわれます。また、先ほど申し上げたように、コミュニケーションは脳細胞の活性化に有効で、認知症の予防・改善効果が期待できます。ですから、今後は高齢者を孤立させない仕組みをつくっていけたらいいですね。例えば、福祉村病院で、まだ認知症ではない高齢者や認知症早期の方が集まる場をつくるとか。

近年、認知症患者さん同士が交流できる「認知症カフェ(オレンジカフェ)」という場が増えつつあります。それはとても素晴らしいことです。ただ、月1回と回数が少ないとか、お茶を飲んで話をする所としてあるのではなく、いつでもいろんなことができる場であってもいいわけです。だから、もっと気楽に高齢者が集まれる場があればいいなと思いますし、さわらびグループなら、それができるのではないかと感じています。

認知症患者さんを診るようになったきっかけは何ですか?

ご存じない方もいるかもしれませんが、認知症も脳を扱う神経内科の対象なんです。また、神経内科にいらっしゃる患者さんは高齢者が多く、当然、認知症を発症されている方もいます。ですから最初は、「神経内科医として、認知症も診られるようにならないと」くらいの気持ちで、認知症診療に足を踏み入れました。

ところが、認知症診療はそれまで見てきた世界とはまったく違っていました。「なぜ、認知症と神経疾患がひとくくりに分類されているのだろう」と疑問を感じたほどです。例えば、通常の神経疾患というのは、診断して薬を出してというように、診察室で患者さんとの話や身体診察だけで診療が終わるケースが少なくありません。けれど、認知症はそうはいきません。何しろ患者さん自身に病気だという自覚がありませんから、治療しようとしても簡単には受け入れてくれない。当然、家族は大変困った状況に追い込まれます。結果、患者さんとご家族のトラブルも多くなり認知症は悪化します。認知症診療はその人の家族、生活、環境も含めて治すようにしないと上手くいきません。

認知症診療は難しいですが、ほかの神経疾患とはまったく異なった接し方が要求されるところに、私はかえって興味を持ったのです。

「生活習慣病予防を心がけることは、ほとんどの認知症予防に対しても有効」という継先生。一例として糖尿病の人はそうでない人と比べて2倍以上認知症になりやすいという。
継泰城(つぐ・やすくに)1952年10月26日生まれ。山口県長門市出身。モットーは、認知症患者さんだけでなく、ご家族を含めて“診る”こと。これまでに診療してきた認知症患者さんは3000人以上。休日は出かけることが多く、「出かけた先でおいしいものを食べたり、見たことのない風景に出会ったりと、何かしら新しい発見があるのが楽しい」と語る。
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